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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

「きっと通りすぎることよ。今までの生活とはまるで境遇が異ってしまったんですものね。そうお思いにならなくって? おかあさまだって、結婚なすったばかりの時を考えて御覧遊ばせよ。きっとそうだったに違いないと思うわ」

彼女の声の調子には、しんから優しい一種の響がこもっていた。が、寿賀子は、まるで侮辱されたように、激越した言葉でそれを否定した。

「私の結婚したてなんか、泣いてばっかりいましたよ。――それにしても、何故お前は、何だというとそう一々弁解したり、説明したりしようとするんだろう! 私ばかり云い伏せようとしたって駄目だよ。現在、仕事は出来そうにないじゃあないか。種々人に訊かれたり厭味を並べられたりしても、凝っと堪えて、いつか出来るかと思って待っているのに――」母は、ふるえて来る声をぐっと堪えた。「境遇だ、境遇のせいだ、と云っているけれど、一体それは、何時どうなるの? 放って置いて、ひとりでにどうにかなるのかえ? お前は境遇境遇と何か一つの動物見たいに云うけれども、境遇といったって、詰り対手じゃあないか? 相手の人格じゃないか」

「――だけれどもね、おかあさま」