轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あるおんなのしゅき
或る女の手記
豊島 与志雄
「婦人倶楽部」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,447 字 · 37 页
昨日一日待っても帰って来なかった。それで和尚さんは、警察に捜索願を出そうかと考えられた。その所へ恰度、私の兄さんが行かれたのだそうである。
「住職と種々話し合ってみると、」兄さんは云われた、「あの男の性格もほぼ分ったし、前後の事情も推察がつく。然し何だか……。」
兄さんは中途で言葉を切って、小首を傾げられた。
私は大きな鉄槌で打ちのめされたような気がした。どう考えていいか分らなかった。自分の未来が真黒な色で塗りつぶされたような心地がした。否未来だけではない、心まで真黒に塗りつぶされたのだ。私はもう何物にも興味を失った。殆んど自暴自棄な投げやりの気持ちで、周囲に対し初めた。何をするのも面倒くさく懶かった。而もなおいけないのは、最初の打撃から遠のくに従って、彼に対する淡い愛着の情が起ってきたことである。二三ヶ月も過ぎて後、当時のことを考えると、彼の一図な気持ちがはっきり分るような気がした。私は彼のことを悪く思えなかった。それ所か、よく思おうとさえつとめた。そして彼のことを始終なつかしく思い出した。もし彼が今私の前に現われてきたら、私は震え上って逃げ出すだろうということを、はっきり知りながらも、彼に逢いたいような気持ちが、心の底に潜んでいた。