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あるひ

或る日

宮本 百合子

「愛国婦人」1925(大正14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页

青空文庫

千代は、凋れた表情になり、両手を痛々しくひきしぼりながら、

「まあ。――折角お優しいお家に上れたかと思って居りましたのに。――でも……そう云う御都合なら致し方もございませんけれど。私……」

と歎息した。

さほ子は、承知された嬉しさと、二三日でも一緒に暮した者を家から出す苦痛とで、何とも云えない顔をした。

彼女は、あやまるように、ほろりとする千代を励した。そして、最後に今朝買って来た紙包をとり出した彼女は、せかせか言葉を間違えたり、つかえたりしながら云った。

「あのね、これはちっともよくないんだけれど、平常着になるような羽織地だからね。――どこへ行ったって其じゃあ働けないから。……縫って著て。――本当に此那ことになって私気の毒で仕様がないのよ。――それからこっちはね」

彼女は、少しばつの悪い様子をして、たたんである橄欖色の布を出した。

「裏になるだろうからいやでなかったらあげるわ。元カーテンに使ってあったから片側は、はげているところもあるんだけれど」

千代は、同じ愁わしげな眼差しでその青い布を見た。そして丁寧に腰をかがめて礼を云った。

「有難うございます。