轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,279 字 · 86 页

青空文庫

そして杉の林と古い池とから醸される幽寥な気が、それらのものに塵外の静けさを与えていた。でも私は淋しくなかった。あたりの景色が静かであればあるほど、遠い旅にでも出た気になって、解き放された自由な喜びを感ずるのだった。殊に光子は溌刺としていて、明るい日向に出ても薄暗い森影にはいっても、同じような眼の輝きを失わなかった。

「私何だかさっぱりして、気が清々して、もうどうなったって……この池にはまって死んじゃったって、構いませんわ。」

そんなことを云いながらぐんぐん歩いて行った。先刻の訳の分らない腹立ちがけし飛んで、その昂奮だけが残ってるような調子だった。小鳥が鳴いてる、花が咲いている、鮒が浮いてる、杉の芽が綺麗だ、ほんとにいい天気だ、などとそんなことを短い言葉で独語のように云いながら、それでも心の底には、何かしらじっとしていられないものが渦巻いてるといった風に、出来るならば宙を飛んだり地面に転がったりしたいような素振だった。で私は彼女を見てるうちに、勝手気儘に飛び廻り囀り散らす小鳥を連想した。実際立木の中にはいろんな小鳥の声が響いていた。それからまた私の頭には、北海道の広漠たる平野やアカシアの都会や山の湯のことなどが浮んできた。