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あるおとこのしゅき
或る男の手記
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,279 字 · 86 页
もっと立派な人だと思いっていました。北海道で関係をつけた女を、二人でしめし合せて家に引張り込んで、私の前では少し都合が悪いものだから、河野さんの家へ追いやって、始終媾曳をして、井ノ頭なんかに泊り込んだりして……。またあの女も女ですわ。あなたに倦きてくると松本さんを誘惑したり、河野さんに身を任せたり、丁度あなたには似寄っています。ほんとに似寄りの夫婦よ。あの女と結婚なさるがいいわ。私邪魔も何にもしやしません。黙って出て行きます。あの女が私の代りになって、私があの女の代りに河野さんの女中にでもなります。あなたよりか河野さんの方が、まだ男らしく立派です。」
彼女はもうめちゃくちゃになって、自分で思っていないことまで口走ってるのが、私には感じられた。と共に、彼女が或る点まで確かな事実を知ってることも、私には感じられた。もうごまかせやしない、そう思うと却って腹が据って、私は初めからのことを告白して、そして納得させようとした。
「もう僕も隠しはしない。何もかも云ってしまうから、つまらない邪推はしないでくれ。」そして私は、北海道では何事もなかったことを諄々と説き、次に一昨日光子が会社へやって来たことから、光子を井ノ頭へ誘い出したことを話し、その時の気持を前に書いておいたような風に説明し、それから井ノ頭でつい遅くなって泊っ