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あるせんきょふうけい

或る選挙風景

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第七号」1951(昭和26)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,997 字 · 14 页

青空文庫

私の住む温泉市の騒ぎには驚いたね。県会議員の候補者が二人で争ってるだけなのだが、二人ともにトラックに拡声器をつけて、絶叫しつつ走りまわる。せまい市のことだから、どちらかの声が必ずきこえている。自動車のほかに歩いて廻るオッサン部隊、オバサン部隊、娘部隊、アンチャン部隊がある。しかし十人かたまってもメガホンなどというものは無にちかい。それほど拡声器はすさまじい。鉄砲と原子バクダンぐらいの違いだね。この新兵器の出現が今度の選挙の兵器革命というものだ。この新兵器で演説するのかと思うと、そうではなくて、演説は小さな劇場で百人ぐらい相手にやる。拡声器の方はもっぱら、私は△△であります、なにとぞ△△に御投票下さい、御投票下さい。競輪と同じ筈だね。あの女アナウンサーを雇ったらしいな。自由党の候補の方は、炭坑節かなんか自分の選挙節をつくって唄っていたね。また彼は猫八や木下華声のような物マネ、虫の泣き声などをやっていたね。彼自身ではないらしい。彼自身はトラックの最後尾に後方正面に向って椅子に腰かけて威儀を正しているのである。私は△△であります。そう拡声器で叫んでいるのは彼ではなくてアンチャンだ。