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あるひ

或日

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,791 字 · 6 页

青空文庫

「どうぞ見せないで下さい。見ることは許して下さい」と云い乍ら、すり抜けようとする。不思議なことに、いくら眼を瞑っても、手で押えても屍の顔ははっきり、見える。

房さりと濡れもせずに散った栗色の髪の毛と、賑やかな襞になって居る赤洋服の襟との間に、極々小さい顔はまるで白蝋色をして居る。唇はほほえみ、つぶった双眼の縁は、溶きもしない鮮やかな草色に近い青緑色で、くっきりの西洋絵具を塗ったように隈どられて居る。

見まい、見まいとしても顔の見える恐ろしさに、私は激しい叫び声を立てて一散に逃げようとした。狭いところを抜けようとして頻りにする身※(「足+宛」、第3水準1-92-36)きで、始めて夢が破れたのである。

半分眼が醒めかかっても、私は夢に覚えた悲しさを忘れ切れず、うっかりすると、憐れな泣声を立てそうな程、心を圧せられて居た。時間にすれば、五時頃ででもあったろうか。

眠りなおして八時過に起ても、私は何となく頭が重苦しいのを感じた。熟睡して醒めた後誰でも感じる、暖かに神経の末端まで充実した心持。それがなく、何だか詰らない、疲労の後味とでも云うようなものが、こびりついて居るのである。