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あるりょうにんのざんぱい

或良人の惨敗

佐々木 邦

「面白倶楽部」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,067 字 · 15 页

青空文庫

「もう止せ。うるさい」

「いゝえ、序ですから白状して戴きますわ」

「白状? 失敬なことを言うな」

「この秋あなたのなすったことで一番悪かったと思召すことを白状して下さい。私も金紗の羽織を一枚白状致しますから、お互っ子ですわ」

「好い加減にしろ」

と鳥居氏は口先丈け強く言っても、肚の中に弱味があったからつい考え込んだ。

「沢山おありで見当がつき兼ねましょうから、何なら私の方から申上げましょうか?」

と夫人は綽々たる余裕を示して、

「あなたはこの夏八十五円の碁盤に惚れたと仰有ったでしょう?」

と相手の様子を覗った。

「俺はもう寝る」

「まあお待ち下さい。子供が追々大きくなりますから、家庭内で惚れたなんて下劣な言葉をお使いになっては迷惑致します」

「言葉の注意か? それなら慎もう」

「お言葉も慎んで戴きますが、秋になると早々碁会で一等賞をお取りになったと仰有って、その翌晩あの新しい碁盤と合乗りでお帰りになりましたね?」

「ふうむ。あの碁盤に嫌疑がかゝっているのかい?」

と鳥居氏は如何にも案外のようだった。

「然うでございますよ。あゝいう細工をなさるから誠意がないと申上げるのです」