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ししょ

戦国武士道物語 死處

山本 周五郎

山本周五郎『戦国武士道物語 死處』。同一底本的分册已合并为一书。收入:死処、城を守る者。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,176 字 · 33 页

青空文庫

もはやお目通りはつかまつりません」

「死にたいとき死ねる者は仕合せだ。好きにしろ」

通胤は席を蹴って立った。

屋敷へ帰ったかれは、小者の藤七郎を呼んで信濃への供を命じ、すぐに出陣の支度をととのえた。生きて還るつもりはない、道は唯一つ、いさぎよく戦場で死ぬだけである。祖先の墓に別れの詣でをしたかれは、折から降りだした小雨をついて、午さがりの道を信濃へ向って出立した。……雨は強くなるばかりだったが、少しでも道を進めたいと思って、馬を急がせた。走田の郷へかかる頃には、とっぷりと暮れかかった。すると、その部落を通りぬけようとした時である。

――わあっ。

という人々の喚き声がおこって、道のまん中へばらばらと人が駆けだして来た。みると七八人の農夫たちが手に手に得物を持って、一人の旅商人ふうの男を追いつめているところだった。通胤はすばやく馬を乗りつけ、

「これ待て、なにをする」

と制止しながらとび下りた。農夫たちはいっせいに振返ったが、春日山城の者とみたのであろう、なかでも年嵩のひとりが進み出て、

「これはよい処へおいで下さいました。いま此処へ怪しい奴を追い出したところでございます」