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せんじょう
戦場
夢野 久作
「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页
夜が深くなって来るに連れて……負傷兵が増加して来るに連れて……一層、仕事が困難になって来た。傷口を診察するタヨリになるのは蛍色の月の光りと、木の枝の三叉に結び付けて地に立てた懐中電燈の光りだけで、それすら電池が弱りかけているらしく光線がダンダンと赤茶気て来る。材料なんぞも殆んど欠乏してしまったので、私は独断で手近い天幕を切り裂いて繃帯にして、自分の身のまわりだけの負傷者を片付けて行った。戦争が烈しいために、万事の配給が困難に陥っているらしかった。
私がソンナ風に仕事に忙殺されている中に、白樺の林の奥の方から強力な携帯電燈の光りがギラリギラリと現われて、患者の間を匐いまわりながらダンダンと私の方へ近附いて来た。私は電池の切れかけている私の電燈に引較べて、その蓄電装置らしい冴え返った光芒を羨ましく思った。誰かこっちへ加勢に来るのではないかと期待しいしいチョイチョイその方向を見ていると、その光りの持主は思いがけない司令官のワルデルゼイ軍医大佐である事がわかった。
軍医大佐は足の踏む処も無く並び重なっている負傷兵の傷口を一々点検しているらしい恰好である。