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せんじょう
戦場
夢野 久作
「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页
自分の肩に引っかけて力を添えてやったが、私の背丈が低すぎるので、あまり力にならないらしかった。
「……ありがとう……御座います。クラデル様……」
候補生が大地に沁み入るような暗い、低い、痛々しい声で云った。白い水蒸気の息をホ――ッと月の光りの下に吐き棄てたがモウ泣いているらしかった。
二
私たちの行程は非常に困難であった。
涯しもなく漫々たる黒土原と、数限りない砲弾の穴が作る氷と泥の陥穽の連続。その上に縦横ムジンに投出されている白樺の鹿砦。砲車の轅。根こそぎの叢の大塊。煉瓦塀の逆立ち。軍馬の屍体。そんな地獄じみた障害物が、鼠に噛じられたような棘々しい下弦の月の光りと、照明弾と、砲火の閃光のために赤から青へ、青から紫へ、紫から黄色へ、やがて純白へと、寒い、冷めたい氷点下二十度前後の五色の反射を急速度に繰返しながら半哩ばかり続きに続いた。
私と連れ立った候補生は、途中で苦痛のために二度ばかり失神して、あまり頑強でない私の身体をグラグラと引摺り倒しかけたが、私が与えた薄荷火酒でヤット気力を回復して、喘ぎ喘ぎよろめき出した。お互いにワルデルゼイ大佐の命令の意味がわからないまま、月の出ている方向へ、息も絶え絶えの二人三脚を続けた。