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せんじょう
戦場
夢野 久作
「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页
その父が昨年の夏、突然に卒中で亡くなりましてからは、継母は家付きの弁護士をミュンヘンの自宅に出入りさせておりますが、この弁護士がドウモ面白くない奴らしいのです。いいですか……」
「成る程。よくわかります」
「僕が継母に説伏せられて三度の御飯よりも好きな音楽をやめて、軍隊に入る約束をさせられたのもドウヤラその弁護士の策謀らしいのです。つまりその弁護士は僕と、僕の新婚の妻との間に子供が出来ない中に、継母と共謀して、財産の横領を企てているのじゃないかと疑い得る理由があるのです。その弁護士は非常に交際の広い、一種の世間師という評判です。極く極く打算的な僕の継母もこの弁護士にばかりは惜し気もなくお金を吸い取られているという評判ですからね。僕をヴェルダンの要塞戦に配属させたのも、その弁護士の秘密運動が効を奏した結果じゃないかと疑われる位なんです」
私は太い、長い、ふるえたタメ息を腹の底から吐き出した。最初は不承不承に聞いていたつもりであったが、いつの間にか一も二もなく候補生に同情させられていた。
「成る程……現在の独逸には在りそうな話ですね。悪謀に邪魔になる人間は、戦場に送るのが一番ですからね」