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せんじょう

戦場

夢野 久作

「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页

青空文庫

軽傷でありましたから帰って来ましたと各部隊長に報告させます」

「……よろしい……今夜の事は永久に黙っておいてやる……わかったか……」

「……わかりました。感謝いたします」

「……ヤッ……ケンメリヒ中尉。御苦労でした。兵を引取らして休まして下さい。御覧の通り片付きましたから……ハハハ……」

そんな風に、急に気軽く砕けて来た軍医大佐のあたたかい笑い声を聞くと同時に、私の全身がゾオッと粟立って来た。頭の毛が一時にザワザワザワと逆立ち初めた。……今までの出来事の全体が、一種の極端な芝居ではなかったか……といったようなアラレもない感じが、頭の片隅にフッと閃めいたからであった。

それは今の今まで、この鋼鉄製の脳髄を持った軍医大佐から、あまりにも真剣過ぎる超自然的な試練に直面させられて、ヘトヘトにまでタタキ附けられている私の脳髄が感じた一種の弱い、しかし強く鋭い一種の幻覚錯覚であったかも知れない……。

……ワルデルゼイ軍医大佐は元来、非常な悪党なのではあるまいか。西部戦線の裡面に巨大な巣を張りまわして、こうした方法で出征兵士の生血を啜っている稀代の大悪魔なのではあるまいか。