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せんじりょこうかばん

戦時旅行鞄

海野 十三

――金博士シリーズ・6――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,792 字 · 22 页

青空文庫

それでも彼は助かりたい一心で、膃肭獣の如く両手で匐って、そこを逃げだした。

「とにかく金よ、お前も長途の旅行で疲れたろう。この寝室を貸してあげるから、ゆっくりひと寝入りしなさい。その間に、われわれは万端の用意を整えることにするから」

「はあ、大先生、お構い下さいますな。どうぞ大袈裟な用意などなさらぬように……」

「まあいい、この部屋は静かだから、よく睡れるだろう。では、おやすみ。夕刻になったら起してやろう」

「はあ、恐れ入ります」

王水険先生は、自室を金博士に譲って、そこを出ていった。そして戸口を出るとき、そっと外から鍵をかけることを忘れなかった。こうして金博士を缶詰にして置いて、遅まきながら万端の用意にかかれば夕方までにはこの大使館の始末機関はすぐ使えるようになるだろう。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、後から呼ぶ者があった。それは余人ではなく、松葉杖をついた醤だった。

「おや、お前、足をやられたか」

「はあ、柊の樹から落ちたものですから。ところで大先生、あいつは何をしていますか」

「ああ金のことか。金は今わしたちの部屋で旅の疲れを癒すため、一寝入りさせているよ。