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せんじりょこうかばん

戦時旅行鞄

海野 十三

――金博士シリーズ・6――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,792 字 · 22 页

青空文庫

わしは、そんなに待っとられん」

「待っとられないと仰有っても、今更予定の時間をどうすることも出来ません」

「ああもうよろしい。わしは明朝には○○港着と決めたから、もう何もいわんでよろしい」

「はあ、さいですか」

金博士のことを、船内では気が変でないと思わない者は、ひとりもなかった。

3

金博士のために、第二二二号の船室が明けられた。

「これは至極覚えやすい船室番号じゃわい」

博士は、又ぞろ三つのトランクをひっさげてその部屋に移った。ボーイが、そのトランクを持とうとしたら、博士は奇声を発して叱りつけたことだった。

間もなく夜となった。

そのうちに、船首でえらい騒ぎが起った。舳で切り分ける波浪が、たいへん高くのぼって、甲板の船具を海へ持っていって仕様がないというのであった。そのうちに水夫が三名、船員が一名、その高い浪にさらわれて行方不明となった。

舳で切り分ける波浪があまり高くて、そのために船員や船具がさらわれたと報告しても、知らないものは信用しなかった。

「なにしろ波浪が、檣の上まで高くあがるんだぜ」

「冗談いうない。どんな嵐のときだって、舳から甲板の上へざーっと上ってくるくらいだ。