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げさくしゃ

戯作者

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年4月1日春季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,218 字 · 21 页

青空文庫

些か湯加減は温いようである。

「これは早速には出られそうもない。迂濶り出ると風邪を引く。ちとこれは迷惑だわえ」

心中少しく閉口しながら馬琴はじっと沈んでいたが、銭湯と異い振舞い風呂、いつ迄漬かっても居られない。で手拭で体を拭き、急いで衣装を着けようとした。どうしたものか衣類がない。式服一切下襦袢までどこへ行ったものか影も形もない。

驚いた馬琴が手を拍つと、ノッソリ下男が頭を出したが、

「へえ、お客様、何かご用で?」

「私の衣類はどこへ遣ったな?」

「へえ、私知りましねえ」

「ご主人はどうなされた?」

「あわててどこかへ出て行きやした」

「何、出て行った? 客を捨てか?」

「珍しいことでごぜえません」

「寒くて耐らぬ。代わりの衣類は無いか」

「古布子ならござりますだ」

「古布子結構それを貸してくれ」

下男の持って来た布子を着、結び慣れない三尺を結び、座敷の真中へぽつねんと坐り、馬琴は暫らく待っていたが、一九は容易に帰宅しない。

その中元旦の日が暮れて、燈火が家毎に燈るようになった。その時ようやく門口が開き、一九は姿を現わしたが、見れば馬琴の式服を臆面もなく纏っている。

「アッハハハハ」