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とびらのかなたへ

扉の彼方へ

岡本 かの子

「新女苑」1938(昭和13)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,155 字 · 17 页

青空文庫

私の身体はぶるぶると慄えました。ここまで苦しんだなら、いくら厚い仕切りでも消える筈だ。私の心はくるりと全体の向きを変えました。二人をこの上とも苦しめようとするのは何者だろう。

それは想い出だ。青春への未練だ。私はこの男にそれから逃れさすために、自分も潔くそれを捨てよう。私は女と生れた甲斐には気丈になって、この男を更生さしてやらなければならない。私は今度は進んで自分から良人の胸へ額を持って行きました。

「私も大人になりますから、あなたも過去のことは打切ってね。それからもう明日にも東京へ帰ることにして、すこしうちの事務の相談でもしましょうよ」

結婚式は挙げても、二人の心境がほんとうに茲まで進まなければ、事実上の良人と妻になってはならない――こう良人は潔い遠慮をし、私も自然にそれに従っていたのが、式後一ヶ月以上の礼儀正しい二人の生活内容であったのです。

籔蔭に早咲きの梅の匂う浜田圃の畦を散歩しながら、私は良人が延ばしていた前の妻の墓標を建てることや、珪次の学費の補助のことや、感傷や遠慮を抜いた実質的な相談をしました。蒼溟として暮れかかる松林の上の空に新月が磨ぎ出された。