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てがみ
手紙
久生 十蘭
「小説と読物」1949(昭和24)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页
た。私は鱶のそばへ泳いで行って、両手で水を叩き、大きな声で叫びながら、鼻面をつかんでむこうへ押してやりました。鱶はそれで一度は深く潜りましたけれども、すぐまた浮きあがってきて、村上さんをねらいました。私は村上さんと鱶の間へ身体を入れ、両手で鱶を防ぎながら、
「早く、刳舟の上へ」と叫びました。
そのときは、鱶のほうもイラダッてきて、尾で村上さんを打とうとしますので、私は左手の拳を鱶のほうへ突きだしておいて、
「こうしているうちに、早く」とまた叫びました。突きだした腕はうまく口の中に入り、鱶は私の左腕の肱から先を喰いとって、水の中へ沈んで行きました。
それから五日目に、私どもはヨーク岬の西側、カルン岬の北の人のいない淋しい砂浜に舟をつけました。ミミカを出てから、ちょうど七十七日目でした。
ここはもとコンラッド兄弟のラガー船の基地でしたが、真珠貝がとれなくなったので、来る人もない。たいへんにさびれ、生物といえば、鴎がいくらか飛んでいるだけでした。すこしばかり草の生えた砂丘のつづきのむこうに、人の住まぬ、こわれた木造小屋と電信所が見えます。この二日、村上さんは眠ってばかりいましたが、私は村上さんを揺り起して、