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てがみ

手紙

久生 十蘭

「小説と読物」1949(昭和24)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页

青空文庫

あなたは村上さんの奥さんですか。私、マリハツ・シロウは、一日も早く村上さんの遺骨をお送りし、死なれたときのようすを、お知らせしたいと思って居りましたけれども、アンボンも独立戦争でいそがしく、今日までそれは出来ませんでした。今年の夏のはじめ、当地もようやくしずかになり、日本へ手紙を出すことも、いいということなので、村上さんのお骨と報告を、戦争後最初のジャワ・チャイナパゲットの郵船にたのむことにいたすつもりであります。

今日、昼、私一人で、村上さんのいられた、セラタン町の宿舎へ行ってみました。あれから時が経ち、庭の草が長く伸び、ヴェランダの床のすきまから草が出て、日除けの柱にはウツボカツラが巻きつき、紫色の花が咲いていました。サウシテ陽がしずかに照っておりました。

ヴェランダには、村上さんがいつも寝ていたとおりに寝椅子があり、部屋には、机も寝台もみなそのままにあります。マンデー(水浴場)の棚にはシャボンが残っていました。なにもかも、そのままにあるのに、村上さんだけが居ない。死なれた村上さんが、帰ることはない。でも、こうしていると、

「おい、四郎、コッピー・パナス(熱い珈琲)」