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ぬけがみ
抜髪
小川 未明
「読売新聞」1909(明治42)年6月6日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,841 字 · 4 页
幾日か降った雨、それは恋しい、懐しい、春の行くのを泣いた泣いた女の涙であっただろう……私は、その夜後悔と慚愧に悶えた。悶えた。
白い雲が、日の光りに輝く青葉の上を飛んでいる。緑葉は一夜のうちに黒ずんだ。青桐の葉は大きく延びた。その蔭が地の上に落ち、はっきりと刻んだ。井戸の釣瓶の縄はいつの間にか切れて、もはや水を上げる役にたたない。ブリキ屋根には赤い錆が出て、黒塗の壁板には蛞蝓の歩いた痕が縦横についていた。私は、黒い家の周囲を廻った。果して窓があった。東向になっている窓が閉っていた。私は、窓の傍に近づいて、戸を開けて見た。裡は暗くて、人の住んでいる気はいもない。物の腐れた臭いが激しく鼻を衝いて来る。僅かに射し込んだ日の光りで、狭い、室の中が見えたが、畳の上には、女の抜髪が一握程落ちていた……。
若い女は、もはやこの家に住んでいなかった。