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だきみょうがのせつ

抱茗荷の説

山本 禾太郎

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页

青空文庫

に違いないと君子は思っている。

朝早く、まだ明けきらぬうちに母に連れられて家を出た君子は、汽車に乗ったり、乗り替えたり、船に乗ったりしたが、居眠っていたこともあれば、よく寝ているところを揺り起こされたり途中は夢うつつで、まるきり記憶になく、最後に乗合馬車を降りてからの道がとても遠い道であったことをぼんやりと覚えている。川もあった。小さな峠も越した。どこまでつづくかと思われるほど長い田圃道もあった。垣根に山茶花や菊などの咲いている静かな村もいくつか通った。そうした道を君子は母の背に負われたり、また手を曳かれて歩いたりした。そして途中でたしか泊まったはずであったが、それが一度であったか二度であったか思い出せない。ただ暗くなった田舎道を歩いたときの心細さや、低い家並の暗い田舎町にぽつんと四角なガス灯をつけたはたごやなぞのあったことを覚えている。そしてまた明くる日も同じような道がつづいた。そのとき母はたしかにお高祖頭巾をかぶっていた。

この道中の記憶は、まるで夢のようで一つも連絡がなく、思い出す道中の景色であったのか、また、旅をするようになってから見た景色であったのか、一向にはっきりけじめがつかぬのであるが、母が黒縮緬頭巾をかぶっていたことだけは間違いないと思っている。