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だきみょうがのせつ
抱茗荷の説
山本 禾太郎
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页
母はついに再びこの門から出てこなかったのである。
それから、すでに十年の月日がたっている。その時の淋しい自分の小さな姿を君子は今でもはっきりと胸に描くことができる。およそ一時間も待ったであろうか、あたりに家はなし、もちろん人通りなぞあろうはずがなく、子供心にもじっとしていることができなくなり、そっと門のなかまではいってみたが、建物なぞどこにあるのか、大きな木が何本もあって、門の外までつづいている道と同じような道が森の奥の方に消えている。君子はなんだか気味が悪くなって、再び門の外までひき返し、ベソをかきながら塀に沿うて屋敷の周囲を廻ってみたが、周囲の小門はかたく閉されてあったし、右に廻っても左に廻っても塀のつきるところは池になっていた。陽はだんだん西に傾く。風は冷たいし、君子はついに泣きながら再び門をはいって行った。
ところどころに石の灯籠があったり、池につづいているような小川に石の橋がかかっていたり、構えのなかはまるでお宮さんのようであった。長い塀がつづいて、納屋のような建物の天井に龍吐水の箱や火事場用の手桶なぞがつってあった。お宮さんの社務所のような大きな玄関、その横の天井には、芝居の殿様が乗ってくるような駕籠がつってあった。