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だきみょうがのせつ
抱茗荷の説
山本 禾太郎
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页
君子はおくさんの留守の間に人形を床の間に飾った。これで最後のためしをするつもりだった。用便から部屋に帰ってきたおくさんは、しばらくはそれに気のつかぬ様子であったが、ふと床の間の人形に目がつくとあわてて抱きあげそっと部屋を見廻して、まるで怖いものを手にしたようにそっと畳の上に置いた。そして――やっぱり……知っているのか――と、つぶやくように言った。
次の間からうかがっていた君子と芳夫は、ひそかに顔を見合わせた。
君子は金の札を浅い茶碗の水に浮かべて中風のため口も身体もきかなくなって一室に寝たままの白髪の老女にすすめた。老女は中風やみ特有な表情でしばらくは茶碗のなかを見ていたが、やがてゆるしを乞うようにぼろぼろと涙を落としながら幾度もあたまを下げた。傍らに坐って不思議そうに見ていた芳夫に、君子は父の最期を物語って聞かせた。
芳夫は言った。松江さん、あなたは女の身です、決して短気なことをなさらぬように、私はあんたのためなら水火も辞しません。それに父の犯した罪を償うのはあんたに対する義務です。あんたのお父さんやお母さんの敵をとる義務は私にあります。
その日のふた子池は風もないのに波立って、いまにも降るかと思われる黒い雲におおわれていた。