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おしいれずいひつ

押入れ随筆

吉川 英治

「暮しの手帖」暮しの手帖社、1957(昭和32)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,648 字 · 14 页

青空文庫

と、讃嘆していた。それを聞いて、私は吉野村の梅をあわれに思った。

吉野村でも、梅の実を作るために、たくさんな梅が村中にあって、花時には、多くのバスが花見客を乗せてもくるが、私の知るかぎりでは、梅へ肥料などをやったのを見たことがない。もし、鰯があれば、梅の木へやるよりは、土地のお百姓がオカズにしてしまうだろう。だから、花もさびしいし、実も曾我村の梅みたいに生らないにちがいない。

人間にも、居る所の土壌と環境で、ずいぶん一生には損徳もあるが、梅にもそんな宿命があるかと思った。けれど、吉野村の人々が、自分たちの土壌を不幸だとは思っていないように、吉野村の梅にはまた、毅然として、独自な痩せ地の枝ぶりや香気を誇っているらしい風趣があった。ここの梅作りの習慣では、梅の全枝へ、万べんなく日光が射しこむように、枝をネジ曲げて、樹姿を大きな傘みたいにしてしまう手法がある。それを“吉野の折り梅”といっている。このあいだ亡くなった川合玉堂画伯などは、その風姿を愛して、よく“折り梅”の図を描いたりした。けれど、梅干の味となると、話だけ聞いても、どうも曾我村の梅干におよばないらしい。