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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
と仰言ったのを、あとから出てお出でになったお母様がお引き止めになったので、やっと品物をお受け取りになりましたが、角力取りはお玄関で追い返されてしまいました。
「あれはお前を見に来たのに違いない。これから角力取のものなぞ縫うことはならんぞ」
と、お父様はあとで大層お母様をお叱りになったそうです。
それから今一つ、お母様が十八の年の二月に博多一番と云われております大金持ちの柴忠(本当は柴田忠兵衛)さんという人が自身でお父様に会いに来られまして、こんな事を云い出されました。
「今日お伺い致しましたのは、私の家の娘の初の節句に是非ともこちら様の奥様の押絵を飾らして頂きたいと存じまして、その事をお願いに参りましたので御座います。それにつきましては、もう四五日しますと東京の千両役者で中村半太夫(あなた様のお父様で御座います。失礼な言葉づかいを何卒おゆるし下さいませ)というのが博多に参りまして瓢楽座で十日間芝居を致します。そのお目見得芝居の芸題は阿古屋の琴責めで、半太夫が阿古屋をつとめる事になっておりますから、その舞台を御覧になって、その通りの場面を五人組みに作って頂けますまいか。