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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
「まあまあ御覧なさい。筆が火鉢に落ちました」
と云いながら、お母様が灰だらけの毛書き筆を火箸でお拾いになりましたので、三人は又涙の出る程笑いこけましたが、お母様がこんなに心からお笑いになるのを見ましたのは、後にも先にもこの時だけであったように思います。
こうして顔が出来上りますと、それに鬚や髪の毛を植えて、関羽と張飛は眉まで植えまして、お母様のお得意の浮き出し人形が出来上りますとその厳めしさと立派さは眼もさめるようで、ことにその中でも張飛の眼は、お父様に生き写しのように思われました。それを聞き伝え云い伝えして見に来る人が又沢山にありましたが、その中にはあのお金持ちの柴忠さんも見えまして一生懸命に力んで感心をしながら、こんな事を云われました。
「どうも奥さんのお手並には今更ながら感心しました。失礼ですがこの前の阿古屋の琴責めの時よりもズンと名人におなりになったようです。つきましては、お忙がしうも御座いましょうが今一つこの通りのを作って頂いて博多ッ子の氏神の櫛田神社にあの阿古屋の琴責めと並べて奉納致したいと思いますが如何でしょうか。実を申しますとこの前の阿古屋のお人形を家に置いておきますと、そのためのお客がうるさくてたまりませんので、娘の名前で櫛田神社に奉納したのですが、その当時はあれを見に来る人のために、お宮