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ごうもんのはなし
拷問の話
岡本 綺堂
「新小説」1924(大正13)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,111 字 · 16 页
吉五郎は十一日と二十一日にこの拷問をうけた。これで最初から二十六回となるわけである。しかも彼は依然として屈伏しないばかりか、更に疲労衰弱のけしきも見えないので、係りの役人たちもほとほと持余してしまった。さりとてみすみすその罪状明白なる罪人をそのままに打捨てておくわけにも行かないので、奉行所では会議の結果、更に最後の手段を取ることになった。
最後の手段とは、かれが自白の有無にかかわらず、かれに対して裁判を下すのである。今日でいう認定裁判で、江戸時代ではこれを察斗詰といった。しかし未決の罪人を察斗詰に行うのは滅多にその例がないことで、奉行一人の独断で取計うことは出来なかった。それはどうしても老中の許可を得なければならないので、吟味掛りの与力一同からそれぞれに意見書を呈出した。いずれも今日までの吟味の経過を詳細に書きあげて、所詮は察斗詰に行うのほかはありますまいというのであった。
江戸の町奉行所で察斗詰の例は極めて稀であった。士分の者にはその例がない、町人でも享保以後わずかに二人に過ぎないという。そういう稀有の例であるから、老中の方でも最初は容易に許可しそうにも見えなかったが、再三評議の末にいよいよそれを許可することになった。