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ゆび

指

佐左木 俊郎

「文学時代」1929(昭和4)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,262 字 · 5 页

青空文庫

すっぽんの生血を取るのには、その首を出すのを待っていて、鋭利な刃物でそれを切るのだと教えられていたからであった。

彼女は電車の中での、自働扉に指を噛まれた男のことを思い出した。あの男の指のように、このすっぽんの首がぐしゃぐしゃに切断されるのだ。彼女はそれを考えると厭な気がした。

併し彼女は、右手に、鋭利な大型の木鋏を握って、すっぽんが首を出すのを待たなければならなかった。これだけは他人に頼むわけにはいかないような気がしたし、女中達へ命ずるのにも彼女は気がさした。彼女は秘密にこれを処理したかったのだ。

彼女の血液の衷の若さは、近頃ひどく涸れて来ていた。この血液の衷から渇いて行くものを補うために、彼女はいろいろなものを試みた。例えば「精壮」とか「トツカピン」とか。併し、そんなものでは間に合わないのだ。が、彼女は涸れるものを涸れるままに、渇きるものを渇きるままに快楽を忘れることは出来なかった。日常の生活の上ではなんの心配もいらない有閑階級の、没落の途上で想像を許された唯一の快楽のために、彼女は、すっぽんの首を切ってその生血を啜らねばならなかったのだ。

首を出した。