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しどうものがたり
指導物語
上田 広
或る国鉄機関士の述懐
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,687 字 · 35 页
さすがに機関助士もまだ何にか云いたげだったが黙り込んだ。私は申しわけなさそうに俯向いている佐川二等兵に向い、心配する必要はないんだよ、と慰めてやった。佐川二等兵はチラと機関助士の方を見やってから、聞こえるか聞こえないような声で、済みません、と頭をさげた。そして再び顔をあげないのである。私は自分の眼頭が急に熱くなるのを感じた。私はあらためて自分の最初の不用意な一ト言を悔いずにはいられなかった。全然触れないでいればよかったとさえ思うのであった。
そんなことがあってから暫くは、佐川と機関助士の間は旨くいかないようにも見えたが、仕事の障害となって現われたものはひとつもなかった。寧ろ反対であった。機関士席にある佐川の蒸気の使いかたからは、びっくりするほど注意深いものが感じられ、火を焚く機関助士の仕事振りには、私が運転する時に見られないまめまめしさがあった。明らかな協力の姿である。私には文句を云うところもなかったが、それだけに機関区に帰って来て、係の目算する使用量が多かったりすると、何度でも、納得のいくまで見直して貰わないと気が済まなかった。機関案内で入庫の準備が終っても、私はまだ炭水車の上で係のものと言い合っていることがある。