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しどうものがたり
指導物語
上田 広
或る国鉄機関士の述懐
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,687 字 · 35 页
それだけでも私はホッとした。まだ会える機会のあるのが十分に予想されるからであった。その夜は営内で準備に追われている佐川の顔ばかり浮かびあがってろくに私は眠ることも出来なかった。なにか私に呼びかけているのだが、さっぱりわからないのである。私は変に胸騒がしいものに襲われていた。眠りについても何度か佐川の名を口にしていたそうである。まるで自分の子供を戦地へやるようですね、見かねたらしい妻にも云われたが、私にはそれすらが癪に触り、思わず泡を飛ばし、戦地へやるのに自分の子も人の子もあるものか、と呶鳴りつけたものである。あまりの権幕に妻も驚いて黙ったけれど、私にはまだ云い足りないものが残った。私は昂奮の原因が、どこにあるか自分にもよくわからなかった。妻の云うように、自分の子供を戦地へ送るときにはこうもあるかと思っても見た。或いはまた、自分自身が令状を手にした当座の気持をも空想して比較してみた。然し何れとも異っているように私には思われる。私は自分自身や子供の場合ならば、もっと落ちついて戦地を考えることが出来るにちがいない。戦うものの生命がどんなに貴く、そしてどんなに軽いものであるかと云うことも、自分の肉体のうちに解決し得る自信が持てる。