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とらわれびと

捕われ人

小川 未明

「文章世界」1908(明治41)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,311 字 · 9 页

青空文庫

早くやっつけてしまわねえかと催促するように忙しげに動き始めた。

白く谷川がさらさらと流ている。その辺は一面に小石や、砂利で、森然として山に生い茂った木立が四境を深く鎖している。仰ぐと眼の前に聳えた高い山の頂の赤く禿げたあたりに暮れかかった日影が映っていたがだんだんその光りも衰えて来た、小屋に立去った褐色の悪者は、大きな砥石を持ち出した。この時火を焚き付けていた悪者は、もう火が燃え上ったので此方に歩いて来たが男の前にあった桶を一つ持って渓川へ水を汲に行った。やがて砥石の傍に水の入った桶が置れて、小舎に行った男が土の上に蹲踞って大きな鉞を磨ぎ始める。けれどこの悪者は未だ一言も互に話し合わなかった。

総ての行動は、皆な沈黙の裡にやられた。

脊の高い黒い服を着た、この中での隊長とも見える男は一枝後方に紅葉の枝の垂れ下った岩の上に腰を下して此方を見ている。先刻火を焚き付けて、今渓川の水を汲んで来た悪者は砥石で鉞を磨ぐ男の傍に立っている、この男の面は間が抜けたように茫然として鼻筋が太かった。けれど腕が太くて力のありそうなガッシリとした身体だ。今砥石で鉞を磨いでいる男は脊が低くて、痩せているが鼻先の尖った険しそうな男だ。