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りゃくだつせられたるおとこ

掠奪せられたる男

豊島 与志雄

「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页

青空文庫

でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)した螺鈿の花瓶とが程よく並べてあった。その横の琴を立てかけた違棚の上には、種々な画帖が乱雑に散らかっていて、山田が貸した五六冊のトルストイの小話集までが置いてあった。紫檀の円机の横にある衣桁にかかった虎の皮が一枚、室の中に異彩を放っていた。

「何をぼんやりして居るの、おほほ。あなたまだこの室が初めてだったわね。」

そういう秀子の言葉を聞き流して、山田は其処に身を落して足を投げ出した。

風雨は益々急になっていた。一秒時二十米突近くの風力と一時間十五粍に達する雨量とは、一面に大地の上に落ちかかって、樹木の梢にまた軒端に、白い水沫を立てながら走り去った。滝のようなどよめきが樋を流れ落ちて、半ばしめられた雨戸の間からは、水滴を含んだ冷かな空気が室の中に吹き込んだ。

秀子は夢みるような眼を挙げて、遠く奔馬のように馳り去る風雨の後を追っていた。而もその擾乱のうちに在って、彼女の呼吸は如何にやさしく静かであったか。家も揺ぐかと思われる中に、山田は、彼女のやさしい香しい息に脹らむ胸のあたりを喰い入るように見つめた。