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りゃくだつせられたるおとこ
掠奪せられたる男
豊島 与志雄
「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页
然し彼は、主人を門口に誘い出して尾を垂れながらその伴をする犬であった。犬が立ち止ると、主人は眼に微笑を浮べて「おいでおいで」としなやかな五本の指でさし招いた。そして主人は馳け寄って来た犬の頭を軽く叱るように叩きながら、その漫歩を続けた。荒い三筋縞の紗の着物を着て同じく紗の帯をしめぽくりをはいたその立像はしとやかであったが、薄色の絽縮緬の半襟から覗いたその頸筋には、人を悩殺せしむる爛熟した肉体の片影が見えていた。
彼等はよくレストーランに寄っては酒を飲んだ。
「私この頃よく飲めるようになったでしょう。みんなあなたのお蔭よ。」
秀子はキュラソーのグラスを手にして、睥むような眼付をした。山田はその前に白痴のようにぽかんとした瞳を見張りながら、しきりに麦酒のコップを干した。
「この次は何処にしましょう。」
秀子は首を傾げて山田の眼の中を覗き込むようにした。彼等は散歩の度毎に一軒々々違ったレストーランやカフェーにはいり込むことにしていたのである。
「どうせこうなったら、おしまいまでやり通すわ。」と秀子は云った。「もう何にも考えっこなしよ。あなたは私のする通りになるのよ、よくって。