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すいりしょうせつろん

推理小説論

坂口 安吾

「新潮 第四七巻第四号」1950(昭和25)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,385 字 · 15 页

青空文庫

ばならない。

「Yの悲劇」にしても、ふれた手の高さと、ヴァニラの匂いを総計すると、まア、犯人の少年を描きうることになるが、それだけがヒントとしては、かなり漠然としすぎており、もうちょッと明確なヒントを与えておいて、読者を説服するだけの準備と構成がほしかった。少年が犯人である動機、他人のメモを見て実行するという大事なところをヒントに提出しておいて謎ときを争うだけの構成の妙味がなければならない。そのヒントを与えれば、いっぺんに犯人が分るじゃないか、というようでは、傑作をかく作者にはなれない。挑戦の妙味は、あらゆるヒントを与えて、しかも読者を惑わすたのしみであり、その大きな冒険を巧みな仕掛けでマンチャクするところに作者のホコリがあり、執筆の情熱もあるのである。十分にヒントを与えずに、犯人をお当てなさいでは、傑作の第一条件を失している。

だいたい推理小説は、解決篇までは、物的証拠を提出するわけには行かない。稀に可能な場合もあるかも知れないが、物的証拠をヒントにだすことは、まず不可能だ。ヒントはすべて状況証拠であるが、AでもBでもありうるという漠然さがあっては不可で、AでもBでもCでもありうる、又、Dでもありうる、というように、提出した状況証拠の漠然さが増大するほど、その推理小説は不出来であると見てよい。