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すいりしょうせつろん

推理小説論

坂口 安吾

「新潮 第四七巻第四号」1950(昭和25)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,385 字 · 15 页

青空文庫

そんなマヌケな犯人がいるものではない。

すべてトリックには必然性がなければならぬ。いかに危険を犯しても、その仕掛けを怠っては、犯行を見ぬかれる、というギリギリの理由があって、仕掛けに工夫を弄するという性質でなければならぬ。

「アクロイド殺し」はアリバイをつくるために蓄音機を使い、それを取りもどす危険を冒す必要があった。そしてその仕掛けに要したちょッとの時間、五分ほどの差によって、トリックを見破られてしまうのである。トリックには常にかかる危険がある。それを承知で敢てせざるを得ぬ必然性がなければナンセンスで、謎ときゲームの合理性に失格しているのである。

推理小説は、主要人物が富豪とか、政治家、女優、大選手など有名人ばかりで、無産者が殺されるというような例は少い。そこで、推理小説は有閑階級の玩弄物にすぎないなどというのは一知半解の見解で、だいたい犯罪の動機は色と慾で、貧乏人が被害者だと、動機が少くなり、限定される。謎の幅が少くなって、謎ときゲームに必要な複雑な綾が少くなってしまうのである。謎を複雑にするには、どうしても身辺に謎の多い人物、色々な角度からカカリアイの多い人物を主人公に仕立てる必要があるのである。