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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
つや子の口をきかない働きかたには、何か体全体で示しているきびしさがあって、特にしげのを、おどおどさせた。
女手ばかりであげた畳を、台の上につんだ。店の間の畳を、二つの樽に板をわたした上に積みあげられた。
「おばあちゃん、その辺に油の樽があったじゃろ」
それも片づけられた。タバコ店の方に置かれていた衣裳箱を、縫子と何度にもかいて、高いところへ移した。
ひろ子は、あぶなっかしく床板ばかりになった敷居の上にもんぺ姿で立って、働いているうちは耳につかなかった雨音が、また一段劇しくなったのをきいていた。すると、台所の方にいたしげのがけたたましく、
「あら! おばさま!」
と叫んだ。
「どうで?」
登代がいそぎ足でそちらに行った。
「お! はアもう水がはいりよるで!」
流元の方からうすい電燈の光をうけながら、音も立てず少しばかり水がひたひた入りこんで来ている。それはまるでこの家へだけ、ほんのぽっちりどこかの水があふれて入って来たばかりと云いたげな何気なさである。
ひろ子は、余りおだやかな目の前のひたひた水を、出水の騒動に結びつけてうけとりかねた。その黒く光る水をぼっと眺めていると、忽ち、小さい昭夫の下駄が浮いて流れ出した。