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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

目のとどく限り、こちら側の水嵩は低く、新道の上はうっすり白く見えた。

「裏へ出ましょう」

とっさに、きめた。

「梯子はどこにあるの? つや子さん」

「おばあちゃん、梯子どこかいの」

縫子が、

「この階段はずしてかけたらええ」

と云った。箱階段でとりはずしがきいた。

「それがいい。誠さんすみませんが、梯子、裏へかかるでしょう?」

すぐ、父子が、はしごを窓越しにかき出して、屋根へ出た。

「つやちゃん、リュックに子供たちのものとお母さんと二人の着がえ入れて」

母の書類の入った小カバンをひろ子のリュックにつめて、それは、縫子が背負った。つや子が昭夫を、しげのが治郎をおんぶした。

「大丈夫だから、ゆっくり落付いて。――すべらないように」

沢田の細君が先頭に立ち、次に母、つや子、しげのと、窓をこして屋根へ出た。石田の家が幾棟にもわかれて建てられていて、しかも、台所の屋根がずっと東へつき出ていたのは仕合わせであった。その屋根の端から、裏の家の薯畑へ梯子がかかった。

「お姉さん、おでませ」

ひろ子が、屋根へ出たあと、縫子が、ローソクを消し、皆の出たあとの窓の雨戸もひいて来た。

這う形で瓦をわたって屋根の端へ出たとき、梯子の中段まで誠がのぼって来て、畑の中にいる父親とリレーで一人一人を扶けわたした。