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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
重吉も立った。ひろ子は、自分の知らないうちに起立して、こちらをふりかえった永田さんの実直な色白い顔がひどく紅潮しているのを見た。
裁判長を先頭にして、一同ぞろぞろ控室に入って行く。その間に、重吉がふりかえってひろ子を見て、笑った。それはいつもの重吉の笑いかたであった。快活に、口元をゆるめその唇の隅にすこし皮肉な皺をよせ、それは重吉のいつもの笑顔であった。それに誘われて、ひろ子も笑顔になった。が、ひろ子の笑顔は一瞬だけのものであった。ひろ子は、つかつかとベンチをよけて、重吉に近づいた。左右からはさんでいる看守は、せき立てるように歩きかけている。ひろ子の身ごなしとその顔つきが、全体で示している感情を重吉はうけとり、理解し、それを鎮めるような、もう一つの笑顔をした。そして、弁護士へともひろ子へともとれる云いかたで、
「じゃ、あさって、又」
と云い、大きな手錠のはめられている手で編笠を頭へのっけて出て行った。その日は、土曜日であった。
そのとき、ひろ子はどんな眼色になっていただろう。それは見えなかったけれども、正直な永田さんの顔が、あんなにもぱっと赤くなったのと、重吉が、永年の病気と日光不足の生活とで、滑らかな蒼い顔をしながら、黒く柔かく、しかも屈することのない眼ざしで、ほとんど滑稽を感じているような笑顔をしたのと