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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
縫子が、となりの座敷で、ひっそりと縫物をしていた。うしろに、叔母の古風な大箪笥が置かれて、側面に、ひなびたかけ鏡がかかっている。ひろ子は立って行って、涙のおさまった自分の顔をつくづくとその上に眺めた。そして、縫子に声をかけた。
「ねえ、縫ちゃん」
「なんでありますか」
「どうも、この調子だと、わたしは一番綺麗でいたいとき、一番みっともなくなってしまいそうだわ」
「あら」
「だってそうじゃないの。もし、かりに重吉さんが帰るときまったら――かりに、そうときまったらよ」
ひろ子は、その仮定をしつこく繰返した。
「わたしは歩いたって東京へゆくわ。そうでなくたって、もうこの四五日で大分あやしくなってしまったんだもの――へこたれねえ」縫子は、年かさの娘のものわかりのよさで優しく力づけた。
「心配はいりませんよ。汽車もそろそろ通じているし――大丈夫でありますよ」
十月六日、例によって正午近く新聞がくばられた。縫子と叔母とは、ドーナッツを御馳走すると云って、台所の七輪のところにいた。
ひろ子は新聞をもって来て机の前へ坐った。見出しを先ずたどって行って、紙面の中ごろへかかったとき、ひろ子の顔つきが突然変った。