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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

それは進んでいる証拠である。確実にひろ子の渇望に向ってはしっているしるしである。

ところが、午後四時頃になって車内に不安な噂がつたわって来た。呉まで来る間にも、まだ出水の被害がのこっていて、大分おくれたその列車はおそらく須波より先へは行くまい、というのである。須波とその次の三原駅の間に大鉄橋があり、それがおちているのだがまだ恢復の見込がついていないというのであった。

「弱ったなあ。――その何とかいうところから次の駅まで、何里ぐらいあるんでしょうな」

「半里ぐらいなもんでしょう」

「何時頃つくでしょう、この分じゃ大分おくれますなあ」

「本来は六時すぎの筈だが、わるくすると九時になりますね」

雨が降りはじめた。ひろ子は、その噂をきいたとき、単純に考えた。どうせ、みんな徒歩連絡をするのだろう。重吉の家の窓から眺めた人々の歩きぶりを思い浮べた。その列について自分も歩いて、三原という駅で夜明しでもしよう。

弱った、とくりかえして、雨が降り次第に暗くなる窓外をしきりに見ている前の席の男が、

「奥さん、あなた、どうされます?」

ひろ子に向ってきいた。

「さア、私は、その三原という駅まで歩いて、ベンチへでもねようと思って居ますけれど……」