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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

ひろ子らのとおされたのは裏二階の六畳であった。日頃は家族の誰か若い女の室となっているらしかった。友禅メリンスの覆いのかかった鏡台があった。その上に白粉の箱が出したままである。古びた三尺の縁側の外は手摺で、そこに迫って裏の篠笹山が見上げられた。番小屋のようなものが、輪郭の柔かなその頂に建てられている。

狭い裏梯子から、風呂場や厠に行くようになっていた。その裏梯子に雨洩りがしていたし厠への廊下は、しぶきをとばして雨が落ちかかっている。階下には、様々の年齢の多勢の家族が格別客に気がねするでもなく暮しているらしかった。

姫路という町の、破れ屋のようになった宿やに泊る端目になったことに、興をもってひろ子はあたりを眺めた。その日は、十月九日であった。きょうあたり網走の刑務所を出たとしても、重吉が四五日かかって東京へ着くまでには、まさか自分も帰りついていられるであろう。その安心が一つあった。東北本線は、山陽線とちがって、被害をうけていない、それも、ひろ子を安堵させた。リュックの中には一升五合ばかり米がある。これがまた更にひろ子の気を楽にさせるのであった。

次々とこんな故障を征服して、一歩一歩、東京へ向って近づいてゆく。