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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

前夜も、その前の晩もそうであったように、八月十四日の夜は、十一時すぎると空襲警報が鳴り、午前四時すぎ迄、B29数百機が、幾つもの編隊となって風のない夏の夜空をすきまもなく通過した。おぼつかないラジオの報道は、目標は秋田なるが如しと放送していたが、それを信じて安心しているものは一人もなかった。富井の一家が疎開してきて住んでいる町の軍事施設や停車場が猛烈な空爆をうけたとき、空襲警報のサイレンは、第一回爆撃を蒙って数分してから、やっと鳴った始末であった。

十四日の夜は、行雄とひろ子とがまんじりともしないで番をした。壕に近い側の雨戸は、すっかりくり開け、だまって姉弟が腰かけている縁側のむこうには、おそく出た月の光で、ゆるやかに起伏する耕地がぼんやり見えた。米軍機の通過する合間を見ては、町の警防団が情勢を連呼していた。そのなかに、一つ女の声が交って聞えた。細いとおる喉をいっぱいに張って、ひとこと、ひとこと、「てーきは」と引きのばして連呼する声を聴いていると、ひろ子は悲しさがいっぱいになった。低く靄がこめている藷畑の上をわたって、大きい池のあっちから、その女の声はとぎれとぎれにきこえた。