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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
この列車は、その都会が始発である。車掌は気を立てている。いかにも過労らしい、肉のつくゆとりのない肩のあたりで制服は色あせている。この車掌が、山の手線の切符に対してまで責任を負う必要があるのかないのか分らなかったが、ひろ子はむしろ車掌の癇癪に同情した。鉄道従業員たちは、機銃の恐怖の中であれだけの努力をしとおした。復員、進駐と、その後寸暇も与えられていないのであった。
ひろ子の斜隣りで、二十歳をすこし出たばかりの海軍士官の外套を着た神経質な顔つきの男が、まだ少年の丸い顔をした部下らしい青年をつれて大荷物をもちこんでいた。それが、紙片を出して問答している。
車掌は紙片をとり上げて、前進した。この間に、さっき後部で開始された悶着の相手が車掌に追いついて来た。
「おい、車掌さん。そんなへちがてえことを云ったって、一文だってお前の得になる訳じゃあるめえし、いいだろう? たのむぜ」
国防服の前ボタンをすっかりあけはだけて、シャツの胸を見せている巻ゲートルは、狎れ狎れしい大声を出した。
「おい、車掌」
車掌は、背中に平手うちでもくらったように素早く振り向いた。
「車掌、とは何です! はじめっから私の損得で云っているんじゃありません。