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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

時々、迷彩代りに、車体へ泥をぬたくったままの列車とすれ違った。復員兵と解除になった徴用工とを満載した有蓋貨車、無蓋貨車とすれ違いながら那須の荒野にかかった。

線路のすぐそばから灌木の茂みが乱暴にきり開かれて、木の色の生新しいバラック風の大建物が、幾棟も、幾棟も、林の方へ連っている。それらはいま無意味そのもののように、愚劣そのもののように、がらんとして九月の西日に照らされている。

「これだけだって、ちっとやそっとの無駄じゃない」

ひろ子の向い側の中老人が呟いた。

「うけ負った奴は、さぞふんだくったんだろうなあ……」

並んでかけている将校の視線も、その尨大な濫費物の上に止っていた。しかしその視線は空虚である。中老人は、黙りこんだ。列車は、単調に動揺し車輪の音をたてていよいよ東京へ近く進行する。

車室にはぎっしり人間が乗っていた。けれども、互を貫くたった一つの共通な気分も興味も示されていなかった。みんながてんでんばらばらであった。めいめいが自分自分にかかずらい、急に変化した自分の利害と見とおしとにかかずらっている。

海軍士官のとなりの重役風の人物は、事業で損をしなかった人物の円滑さで、向い側の陸軍軍人に、折々四方山ばなしをしかけた。