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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

ひろ子はそう思った。

「間違いのない方向はあるんだから、それで着々やって行けばいいわけなんだ――それにしてもいつ頃帰って来られるだろうな、みんなは……」

「治安維持法をいつ撤廃するか、それが問題だ」

「おそくても、今年のうちには、やらざるを得まい」

「一日も早く帰したいわ、ねえ、ひろ子さん」

きいているひろ子は、熱い大波に体ごとさらわれるようなこころもちがした。

「あんまり云わないで……」

ひろ子は弱々しく篤子に囁いた。十二年の生活の間に、ひろ子は、きびしく自分をしつけて来た。重吉と自分とのことで、世間並にうれしいこと、そうありたいこと、そうなったらばどんなに嬉しかろうと思える予想には、最大の用心で、うかつにうれしがらないように抵抗した。

拘禁生活の七年目に、重吉が腸結核を患って、危篤に陥った。拘置所の医者が、ひろ子に「時間の問題です」と告げた。医者は検事局へ、入院手当させる最後の機会であることを通告した。そのことも、ひろ子は知っていた。ひろ子は、どんなに療養所を調べ、医者に相談し、費用を調達して、待っただろう。

検事局は、拘置所の医者の注意を拒絶した。重吉が思想の立場を変えないからというのが却下の理由であった。