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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

一方に、思想の立場云々をかざしながら、片手はその扉にかけて、あける気があるふりをして見せるとは。ひろ子は、自分の涙さえ、これについては流すまいと決心した。それほど憤りに燃えた。

この時分から重吉の、しん底からの人間らしさが、やっと本当にひろ子の身と心にしみ入った。二人で暮した期間が余り短かかったのと、重吉の活動に直接加わっていなかったのとで、別れて暮すようになってからひろ子は重吉に対して、いくらか具体性のとぼしい、そのくせ子供めいた敬意をもちつづけて来た。けれども、重吉が、買いものなんかして置くがいいよ、と、おだやかに、ひろ子を惑乱させないようにと心をくばりながらつたえたとき、重吉の体は、あんなに大きくなって面会窓から溢れ出すように見えた。ひろ子の目にだけ、そう見えたのだと決して思えなかった。そこには、重吉の思いも横溢していたのであった。だのに、それがむごたらしくはぐらかされたとき、重吉はあれほど自然だった大きい横溢を収拾して、新しい事情に立った。ひろ子の心情をも支えて立った。その体温が自分の皮膚にもつたわる良人としての重吉を、この時ほどひろ子が瑞々しく、そしてひしと感じたことはなかった。