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そうしゅ
操守
豊島 与志雄
「改造」1929(昭和4)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,418 字 · 20 页
「主義はおかしい……。あんなに泥坊を怖がっていて……。」
「いやあね、泥坊は別よ。それと雷……。」
震み上った様子をして、彼女は吉乃の肩に手をかけていた。
「ねえ八重次さん、わたしこんな妹があったらいいと思うわ。似合うでしょう。わたしも背が高い方だし、このひと、おとなしいし、好きよ。」
「あら、そんならあたしは……。こちらの、妹御さん……。おかしいわ……。」
岡野の方を覗きこむ風をして、八重次は吉乃にやさしい視線を送った。
吉乃は澄代の手の下に、首を縮めていた。地位が逆に、こちらが初めからお客のような、座敷の空気ばかりでなく、いやそんなものをすっかり蹴散らして、絡みつくようなしなやかな澄代の手の感触が、彼女の自意識を呼びさます。先程からただ本能的に見て取っていたものが、表面に浮出してくる。……澄代の、袖口を持ちそえて掌を胸に押しあてる嬌姿、自由にしないそうな綺麗な指、頸筋の荒れた皮膚、瞬間に燃え立ったり消えたりする、而も押しの強いその眼差、そしてその底の、疲れのこもった色っぽさ、それから、岡野の、そしらぬ顔をしてやたらに煙草を吹かしながら、澄代の挙動の一つ一つに、魅せられたように惹きつけられてる視線……。