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そうしゅ
操守
豊島 与志雄
「改造」1929(昭和4)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,418 字 · 20 页
がそれよりも、三四人も妓を抱えているおかみさんとしては、余りに目先の利かない言葉だ。ありようは、彼女の勤めぶりを見ればすぐに分ることだった。彼女は、好意の感情を超越してるらしかった。親疎の感情を超越してるらしかった。云わば、最も公平に商売をした。ひらのお座敷でも、または……。
意地とか張りとか侠気とか、長く培われた伝統は、公平であってはいけないと教えている。表面は公平が立前でも、裏面には不公平がのさばっている。それが人情だ。そこに面白味がある。言葉尻の表情、見交す眼付……刹那に燃え、刹那に消ゆるものであろうと、その光に輝らされて、或は過去の、或は将来の、別種の深い世界が描き出される。それが、陥穽だ。罠だ、或は逃避所だ。人は獣を真似て、四匍いで競争する……公然と。なぜなら、それが人情だから。そしてそれが商売となっている。人情を無視することを原則とする商法の、埓外に出た特殊の商売だ。
それが、ひらのお座敷でも。況んや……。
そんなことを吉乃は考えてはいなかった。然し、無意識的に、商法の原則を守っていた。彼女の眼付は、二重の意志表示をしなかった。しまりのわるい唇は、どの客にも同じように金歯の光を見せた。