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ぎたい
擬体
豊島 与志雄
「新潮」1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页
「とにかく、よく考えてみましょう。」
それだけ答えるのが、青木には漸くのことだった。
夜の街路を、青木は飄々乎と歩いていった。通り馴れた途筋で意識せずとも自然に足は一定の方向へ動いた。或る屋台店で、鰻の頭をかじりながら焼酎を飲んだ。それからまた歩いた。地階への狭い入口がぽかりと開いてるのを見定めて、よろよろと降りていった。幾つかの店に区切られてるその一番奥に、壁に沿って白木の卓が並んでる飲屋があった。端っこの隅の卓で、丸田が日本酒を飲んでいた。石村証券の社員である。青木はその前に行って佇んだ。
「あ、いらっしゃい。ここでよく逢いますなあ。」
青木は黙って彼の顔を見ていた。
「どうかなすったのか。顔色がよくありませんぜ。」
青木は薄笑いを浮べて、腰を下した。差された杯を受けながら、丸田の顔をつくづくと見た。
「あんたは会計の方の係りだから、知ってるでしょうが、石村証券の経営状態は、今のところ、どうなっていますか。」
「赤字ですなあ。」
「それじゃあ、退職金も出せませんか。」
五十過ぎた律儀な丸田は、妙な顔をして青木を眺めた。
「退職金について、石村さんは約束したことがありますね。