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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

それもこれも、みな酒のせいです。だから、ばかげてるじゃありませんか。」

丸田は怪訝な面持ちで黙っていた。

「いったい、ひとをやたらに疑ったり、ひとをやたらに信じたりするのが、間違いの元です。だから、何でもないことがスパイに見えたり、何でもないことがスパイのスパイに見えたり、大間違いの結果になります。ばかげてるじゃありませんか。私は断然嫌ですね。みな酒のせいです。だから、私は酒をやめますよ。」

そして青木は立て続けに酒を飲んだ。

「まったく、今日はあんたはどうかしていますね。」

覗き込んでくる丸田の顔を、青木は眼を大きくして眺めた。

「あ、丸田さんでしたか。」

「これは、御挨拶ですね。今迄誰と話をしていなすったつもりですか。」

「え、何か言いましたか。聞き流しておいて下さい。少し気持ちが悪くなったんです。ここは地下室でしょう。だから、掘割の水面より低いんですよ、汚い溝の水より低いんですよ。だから、むかむかするんで……。」

青木は卓にしがみつき、上体を傾けて、胃袋の中のものをげっげっと吐き出した。

深夜、青木は泥酔してアパートに帰った。だが、泥酔してるのは体だけで、頭はへんに冴えてる気持ちだった。